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セイラック~山と川と釣りの物語 vol.18 ウロコ柄コピーキャットの秘密

まえがき、のようなもの

鱒の森第25号に掲載されたセイラック18話です。 釣りの舞台は春先の山上湖。 未明の湖畔で、ふたりは夜明けを待っています。 風もなく静かな夜は、少しずつ朝へと近づいています。 以下、セイラック本文です。

2014年3月

見上げると、漆黒だった空に、いつの間にか少しだけ青が混じっていた。 濃紺より、もっと濃い青だ。 「こんな空の色をな、鉄紺っていうんだ」 足踏みをしながら成瀬が言う。小さな石の粒を踏む音が断続的に聞こえてくる。寒くてじっとしていられない。夜明けを待ちながら、僕も成瀬も、氷点下の気温の中で、常に体のどこかを動かしていた。 テツコン? へえ。お前、色の名前に詳しかったんだな。 「まあな。それより、そろそろ釣り始めてもいいんじゃないか?」 早過ぎだよ。どう考えても、まだ夜だ。 僕らは山上湖の湖畔にいた。 氷が解けて釣りができるようになったのが数日前。 僕からの連絡を受けて、昨夜成瀬は住んでいる神奈川から、盛岡にやって来た。 成瀬と僕は、高校生時代の同級であり、釣り友達であり、飲み仲間だ。 僕が生まれ育った盛岡は、成瀬にとっても故郷ということになる。 東京都内ならば、もうそろそろ桜の開花が聞こえてきそうな季節だが、山上湖の3月は早春というよりも冬と呼んだ方が適切だった。 釣りを始めれば、すぐにガイドが凍り始めるに違いない。 湖のこのあたりは、岸から急角度で深くなっているので、ウェーディングしなくていい分、水の冷たさを感じないが、早朝のこの時間帯は気温が低いので、水に浸からないからといって温かいというわけでもなかった。 空がさらに少しだけ明るくなった。 「そろそろいいよな。もう夜じゃなくて、早朝だ。ものすごく早い、フェラーリ的な早朝だ」 早いの意味が違うよ。 成瀬は、あらかじめ結んであった黒っぽいスプーンのフックをガイドのフットから外し、数歩左に移動してから、キャストした。遠くの湖面で、白い水しぶきが少しだけ見えた。 空は加速度的に、明るさを増しているようだ。 じっと見ていても変化は分からないが、気がつくといつの間にか明るくなっている。 この空の色は何ていうんだ? 「知らねえよ! 空の色なんてオレに聞くなよ」

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