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セイラック~山と川と釣りの物語 vol.17 グレートハンティングと本流ヤマメ

まえがき、のようなもの

鱒の森第21号に掲載されたセイラック17話です。 仙台に住んでいた頃、白石川にはよく通っていました。 初めは、エサ釣りをしていた先輩に場所を教えられて、本流ヤマメを狙い始め、尺上も何本か捕ることができました。 20年以上前のことです。 311以降、釣りを自由にできなくなったという噂を聞きましたが、今はどうなのでしょうね。 以下、セイラック本文です。

2010年5月 白石川

桜の花はひと月前に散り、新緑だった木々もすでに濃い緑へと変わっている。 いよいよ初夏の頃合いとなって、日中は汗ばむほどの陽気が続いていたが、午前4時の空気はさすがに冷たい。 宮城県蔵王町の白石市との境に近いあたり。 国道4号線から清涼飲料水の工場の脇道に曲がり、道路の突き当りで、僕は成瀬の到着を待っている。 あたりはガスに包まれている。 濃い霧だ。 夜は既に明け始め、山の陰から太陽が顔を出せばガスはすぐに霧散するだろう。 消えてなくなる。霧のように。1時間後には太陽光線にさらされ、気温はぐっと上がる。 それを予測して、僕はフリースを着るのをやめ、フランネルシャツの上にウィンドブレーカーを着こんだ。 3時間ほど前、僕は岩手県の盛岡を出発し、白石川までやってきた。 ほとんど寝ていない。 神奈川に住む成瀬は、この釣りのために仙台出張をでっち上げ、前日は仙台泊。 レンタカーで白石川までやってくる手はずになっていた。 運転席のホルダーからコーヒーのタンブラーを抜きとり、熱いコーヒーをすする。 家で入れてきたコーヒーは宮城県に入る前に底をつき、高速を降りてからコンビニで買ったやつだ。 保温タンブラーに移し替えたので、まだ熱い。 今はどこでも夜中でも入れたてのレギュラーコーヒーを買うことができる。いい時代だ。 4号線の方から2つのヘッドライトが曲がってきた。 僕が手を振ると、その車は僕の車の真後ろまで来て停まった。 エンジンが止まると、驚くほどの静寂になった。 霧はあらゆる音を吸いつくし静寂を作る。 「いやあ、凄い霧だな。見通しが悪くて、ここまでたどり着かないかと思ったよ。さすがのオレも着かなければ魚は釣れないからな」 ドアが開くと、僕は騒音に包まれた。 「昨日は取引先の部長と飲みに行ったんだけど、2件目の店の女の子が壇蜜に似ててさ……」 霧といえども、成瀬の騒がしさにはかなわない。 「ここのところ、恋愛も営業成績も絶好調のオレの勢いは、スタン・ハンセンでも止めることはできないだろうが、さすがのオレ様でも、霧と壇蜜には弱い」 何の話か全く分からなかったが、こういう時は、成瀬の発する言葉をまともに聞く必要がないことは分かっている。 釣りの準備しろよ。 マシンガントークを遮ってひとこと言うと、成瀬は不満げな顔すら見せず、レンタカーのトランクを開け、釣りの準備を始めた。 「壇蜜が最高だと思うのは、抜群のスタイルと脱ぎっぷりの良さだ……だけど、90点くらいの、決して100点ではない容姿という部分も大事なんだよな」 エドムント・ヘッケラーさんとテオドール・コッホさんが作ったサブマシンガンをフルオートで撃ちまくるようなトークを維持しながら、ロッドを袋から取り出し、2ピースロッドをつなぎ、リールをセットする。 「容姿っていう意味では、空飛ぶ広報室の新垣結衣の方が100点に近いじゃないか。ガッキーの場合はマイナスポイントを探す方が難しくて……」 そう言いながら、暗闇の中ヘッドライトを使ってフック交換をするのは、難易度が高い。 常人にできることではない。 喋りに関する特殊能力は、成瀬が持つ優れた才能ではないかと思うこともある。 その抜きん出た才能が、素晴らしい発明を生み出したり、世界平和に役に立つことは決してないという部分が残念だが。

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