『あなたも、大切な人を失ったの?』 「・・・・ああ。 だがそのことよりも今はお前の方だ。 このままここで私に、白刃の雷刀に斬られて終わりとなるか? それとも人として死に、愛しい者と再び出会うために輪廻の輪へと戻るか? いずれかを選べ」 酷く寒々しい空だった。 まるで何かを悼むかのように曇天の日々が続いていた。 『影鷹殿』 「何か?」 『もうそろそろ休まれよ、飲まず食わずで歩き通しても何も良いことはありませぬぞ?』 「・・・・と、申されてもな」 苦笑いを浮かべて返答をした。 若い侍だった。 頬がこけ、痩せ衰えていたが、その目の光は力強く輝いていた。 野生の狼のように鋭く何かを見据えて、その足取りは遅いが重く苦しさを感じさせるものではなかった。 まるで何かを噛み締めるかのように歩いていた。 「もう暫しすればいずこかの宿場町へとたどり着きましょうぞ。 そうすれば一夜の宿の一つや二つ、得ることは叶いましょうぞ」 『もう休め、影鷹』 いつのまにいたのか、粋な着流し姿に片手に刀を持った存在が彼の傍にいた。 「宇迦殿、そうは言っても休む場所などありますまい?」 『ここから暫し行ったところに社殿がある。 そこで今宵は身を休ませよ』 「・・・・何故ゆえに?」 『あの二人を思えばこそだ』 悲しみとも慈しみとも言えない眼で彼を、影鷹を見た。 『いまお前が倒れてなんにする? あの二人がそれで喜ぶとでも思うのか?』 「生きているだけ意味があるますまい」 『・・・・・』 「彩乃と彩女を失って早数年。 これ以上、生きていてなんになると言うのですか? おそらく大殿もすでにこの世にはおりますまい。 ならば生きているだけ恥を晒しているのと同意義と言えるでしょう」 『だからそこだ!!』 『やめよ、宇迦御霊神』 甲冑に身を固め、腰に剣を佩いた存在がいつの間にか宇迦御霊神の肩を掴んでいた。 その存在は体格が良く、一目で威厳があるとわかる偉丈夫だった。 『しかし、八大竜王様!!』 『控えよ、御方様が気にされておられる』 そう指摘されて、宇迦御霊神が驚いた様子で天を仰いだ。 (誰が見ていようが気にしておろうが構わぬ。 生きているだけ生き恥を晒していることに変わりはない。 ならばいつ死んでもなんら変わりはない) 『影鷹殿』 「如何された、稲荷殿」 抑えようがない悲しみを帯びた目で、傍にいる二尾の稲荷を見た。 『心情はわかりますが・・・・』 「気にされることはありますまい」 言葉を遮るかのように言い放つと、再び歩き出した。 「いつ死のうが構わぬ。 彩女と彩乃をむざむざと死なせて生き恥を晒して、それでもまだ生きようとしている私ほど浅ましいものはいるまい。 主命により死ぬことも許されず、恥を晒すようかのように生き続けている者は、おそらく他にはおるまい・・・」

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輪廻転生 約束の華 ③ 鬼夜叉
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