ヘドンとトラウト
これは、東北の城下町にあるセイラックというプロショップと、そこでぼくが出会ったルアーやそれに関する話である。 この店は釣り具とアウトドアの店だが、外観はただの洋館である。中に入るまで、そこが店舗だということには全く気がつかないだろう。 中に入ると、新製品と古い釣り具や何に使うのか分からないような道具が雑然と並び、その上にうっすらとほこりが積もっている。店内の掃除が定期的にされている気配はない。店内を物色すると、手が真っ黒になるので、店には濡れタオルがおいてある。 店の主人は言幸さんといい、名字は彼との約束で書かないことになっている。「ことゆき」なのかもしれないけれど、ぼくらは「げんこうさん」と呼んでいる。 言う=SAY(セイ)、幸=LUCK(ラック)で、セイラックという名が付いたのだという。神奈川県の小田原市には、「聖楽堂」というちょっと変わった本屋さんがあるらしいが、そことは店の名前が似ているだけで全く関係がない。 ヘドンというメーカーは、バスプラグとしては老舗の超一級メーカーであり、特にプラドコという巨大な会社に吸収される前、たとえば80年代初頭までのヘドンは素晴らしいルアーをたくさん排出していた。 その頃のルアーには今ではプレミアがついて、モノによっては1万円を超える価格で売られている場合もある。 そのバスプラグメーカーであるヘドンにタイガーというプラグがある。 リップの輪郭がギザギザで、ずんぐりとした頭部に目はくりくり。なんとも間抜けな表情がかなりキュートだ。 リップは付いているが、バス釣りではこれをトップウォータープラグとして使う。ロッドをあおって首を振らせ、ねちねちとバスを誘う。水面で出なければ、ちょっとだけ潜らせ、リトリーブを止めるとゆらゆらと浮いてくる。 その動きにバスが反応する。