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202話 どんどん大変な方へ

面談の時、 学部は工学部ならどこでもいいと思っていると イチローが言ったあたりで、私が イケメン先生に聞いたことがあった。 「あの…。私、別に学部はどこ、 などと指定したりするつもりはありませんけど… 数学って難しいじゃないですか。 大学ではその、今やっていることより上の、 もっと難しいことをやるわけですよね。 今より簡単になるわけないですよね。 それでこの子、本当に大丈夫なんでしょうか?」 高校レベルの数学ですら 四苦八苦している様子なのに、 大学へ行って数学なんかできるのか、という素朴な疑問だった。 「…心配されているのは、進級できるか、とか 卒業できるか、とかですよね? だとしたら 大丈夫だと思いますよ。」 そうでしたね。 以前もそうおっしゃっていただきましたっけね。 と思いながら私は答えた。 「そうです。そうです。 別にトップを爆走してくれなくていいです。 普通に4年で卒業できれば…。」 イケメン先生はもう一度言ってくれた。 「進級だけならそんなに心配しなくても大丈夫ですよ。」 僕がしっかり教えましたからね。 テストで点が取れないことはありますが、 理解していないと言うことはありません。 という言葉が聞こえてきそうな口ぶりでもあった。 その話は前にも聞いていたのに なんでまた持ち出したのか、 私はその真意をもう少しだけ話した。 「大学って、普通は自分が得意な分野へ行くわけですよね。 だから苦手なものをやらなくてよくなっていくはずなんです。 だから私なんか大学へ行ってからは どんどん勉強が楽になっていったって記憶があるんです。 でも この子見ていると、どんどんどんどん 大変な方へ大変な方へ入り込んじゃっている気がするんですよ。 そんな窮屈なところへもぐりこんでいかなくても、ってね。」 私自身の都立高校は、文系理系に分かれなかったので、 理系でも何でもないのに、 物理だの 化学だの、 数Ⅲだのっていうのが なんだかんだと毎年加わってきて それなりにクリアしていくのが面倒かつ大変だった記憶がある。 文理選択できる、私立の子がうらやましかった。 (※今は都立でもいろいろあるらしい) だけど大学へ行くと、 そういう望んでもいない教科をやることが全く無くなったから、 とても楽しかった。 でも、イチローは大学へ入って 楽しい と思うことがあるのだろうか。 大変だと思うことは沢山ありそうだけど 楽しいと思うことは・・・。  合格の次に、留年を心配しているイチローを見ていると これでよかったのかどうか不安になることがあるのだ。 私は準備していた過去問のプリントを先生に見せて こう聞いた。 「イチローにこの数学の問題、解けるでしょうか?」 それはMARCHのなかのとある文系の学部で 数学と地理だけで入れるところのものだった。 英語も国語も、もちろん物理もいらないのだった。 ただMARCHに入るだけだったら、 こんな楽な方法だってあるんだよな。 今更ながらにそう痛感した。 ここなら留年の心配もなかっただろうし、 大学へ行ってから楽しかったかもしれない。 就職の心配はあるかもしれないけど、 理工学部だって就職の心配がない訳ではない。 そこの受験科目はなにも数学でなくても構わない。 でも今のイチローが受けるとしたなら 数学を選ぶのが得策だろう、というだけだ。 数学をこれだけ勉強したんだ。 理工学部の数学よりも簡単そうだし、 高得点が狙えるのなら受けてみてもいいと思って 相談しているのだった。 イケメン先生はその問題を見ながら 「うーん。」 と言って困ったようにほんのすこしクスッと笑い 「…あまり得意ではないかなぁ~。 解けないことも無いと思いますけど・・・。」 と言った。 どうやら計算で細かく出していくような数学のようだ。 そこは文系学部だから 数学のジャンルが違うのは知っていたけど 夏にはK大の25カ年文系数学や、文系のプラチカを ずっとやっていたのだし、意外といけるんじゃないか?  と思ったのだけど。 ついでに 地方の工学部の、評判だけはやたらといいところの、 過去問も見てもらった。 「イチローが無理といいます、先生に止めたほうがいいと 言われるとも言うのですけど・・・。 難しい大学じゃないんですよ? この問題、イチローに解けませんか?」 と言って私はまず数学のプリントを渡した。 先生が問題を眺め始めると 慌ててイチローが言った。 「違うよ!数学じゃないよ!!数学は出来るよ!!! 物理だよ。物理!」 先生はゆっくり言った。 「…この数学はさすがにできるよね?」 イチローは 「あ、はい。」 と返事をする。 それができなかったりするんですけどね。 私はその言葉を飲み込んで イチローの言う、物理の過去問をクリアファイルから取出し、 先生に渡した。 それをイチローも一緒に覗き込みながら、 先生に説明し始めた。 「数値計算なんですよ。 体積とか。 ほら 四捨五入して小数点第2位で・・・ みたいな。」 イケメン先生は なるほどね~ と言う感じで 「…確かに得意な分野じゃないね。」 と言った。 物理ができないのではないけれどおそらく得点できない。 それはミスキングのイチローが 足し算や引き算を間違えてことごとく失点する、 それが目に見える、 そんな問題であるらしかった。 なんなんだよ。 じゃあさ、いったいどこ受かるんだよコイツは。 まあいいや。 地方の工学部の方はセンターで取ることにしていたし。 センター演習は塾でやってくれるから安心だし。 そこはそんなに高得点を求めてきていないし。 唯一、可能性のありそうな文系学部の受験もこれで消えた。 理系学部への進学への心配は 先生の  大丈夫ですよ   に励まされれる形で終了になったけど、 その日の夜になってからイチローがこう言った。 「お母さんが言ったさ、 どんどん大変な方へ入り込んじゃっている、っていうの。 まさに 俺もそう思うんだよ。 その通りだってさ。 あーあ。」 やだ…。 また私は余計なことを言ってしまったのだろうか。 今この時期に、大学へ合格した後の 希望が見いだせないのはマズい。 ここまできたらジタバタせずにとにかく合格しないと。 ぶれ始めたらどこにも行けず  2年間の苦労が水の泡となるだけでなく 路頭に迷ってしまいかねない。 私は  「ま、ここまで来たんだし、合格して行ってみてから考えれば?」 と言った。 それから 「高校時代の友達には、今のイチローよりも 数学や物理ができない子がいっぱいいたよね? でもみんな進学して、留年したってそんなには聞かないし、 だから大丈夫じゃないのかな。」 とも。 当時のイチローよりは数学の成績が上だったと言っても、 今のイチローの方が微積は理解しているだろう。 「イケメン先生が大丈夫だと太鼓判を押しているんだから 大丈夫よ。」 私はそう言って勇気づけた。 受験日程を決めていく際に、 私はかねてからの疑問をちょっと イケメン先生に聞いてみた。 先生も10個も受けたのかどうか だ。 本命と滑り止め、それから国公立のせいぜい3個くらいしか 受けていないんじゃないかと思っていたからだ。 私はストレートに聞いてみた。 「先生はこんなに受けていないんでしょう? 2つくらいじゃないのですか?」 イケメン先生はすぐに答えた。 「いえ。沢山受けましたね。 浪人生と言うのは、失敗が許されないので、 みんな沢山受けていくものです。」 へー。イケメン先生も受けだったんだ。 ちょっと意外だった・・・。 具体的にどことどことどこを受けて どことどことどこに受かったのか聞きたかったけど  さすがにやめておいた。 聞いたら教えてくれたかもしれないけどね。

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