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THEOUTSIDER編 第三話 試合に出る為にリングスに凸する

※この記事は私がアウトサイダーに出ると決めてから2ヶ月くらい経ってから執筆、公開したものに加筆、修正したものになります。 よしなし☆ ―――西暦2014年。7月某日。 私は神奈川県秦野市にいた。 予報されていた激しい雨はさほど降らず、終了予定時刻としていた午後2時よりも2時間ほど早く作業が終了した。 ―――ようやく終わったのだ。 ようやく・・・・。 「本当にどうもありがとうございました。大変だったでしょう?ごめんなさいね。なにもしてあげられなくて」 元請けのリフォーム会社でこの現場を担当している年配の女性社員が私に深々と頭を下げた。 「いえ、いえ、全然大丈夫ですよ。それよりも無事終わって良かったです。あと、こちらの方こそ予定よりも遅れてしまって申し訳ありませんでした。家主さんの方にもよろしくお伝えください」 私はそういうと、預かっていた現場の鍵を女性社員に手渡した。 「本当に大丈夫?ずいぶん安くしていただいたけど、赤字になっちゃったんじゃない?」 女性社員が上目遣いで訊いてくる。 「いや~、ぶっちゃけ”赤”にはならなかったですけど、儲けは出なかったですね」 私は黒い炭などで真っ黒になった顔に苦笑いを浮かべると頭を掻いた。 ーーーそこは数か月前に火事が起きた現場だった。  幸い住人は留守だったので怪我人等は出なかったが、その代わり中は本当にひどい有様だった。 文字通り足の踏み場もないほどゴミが散乱しており、それは一階から二階、そして屋根裏部屋にまで及んでいた。 異臭が鼻につき、室内は薄暗く、中はゴミ屋敷さながら、いいや、まれにその上をいく"お化け屋敷"さながらの状態であった。 それらのゴミを私を含めた選び抜かれた地元の精鋭たち、4人がかりで可燃ゴミと不燃ゴミ、それにリサイクルゴミに細かく分別しながら搬出し、 2トントラックと軽トラックに積み込み、秦野市から指定されたゴミ処理場へと運搬していく。 一体、何回ピストン(往復)したのかわからない。 いっこうに終わりが見えず、気の遠くなるような過酷な作業だった。 この案件は元請けのリフォーム会社から下請けのハウスクリーニング会社に流れ、最終的に私のところに回ってきたものだ。 いくら孫請けとはいえ、私が便利屋として独立してから請けた仕事のなかで最も規模の大きかった案件で、それだけに責任は重大で失敗は許されず、いささか緊張感を持って臨んだ仕事だった。 もちろん、私もボランティアでやっているわけではないので、それなりの利益を出すつもりで請けたのだが、 経験不足からくる大幅な見積もりミスと、”り災”した現場特有の事情から1日で処理できるゴミの制限がかかり、 結果、人件費等が当初の予想よりも大幅にかさんでしまい、蓋を開けてみれば、私自身はほとんどただ働き同然という、全く笑えない状況に陥っていた。 リフォーム会社の女性社員と別れた直後、私の表情から綺麗さっぱり笑顔が消えた。 「・・・・」 私が不機嫌になる理由はそれだけではなかった。 この間、機種変更したばかりの携帯が再び壊れ、仕事専用で使用しているPHSも壊れ、さらにエアコンの内部洗浄に使用する高額な高圧洗浄機までどういうわけか壊れていた。 ーーー私はイライラしていた。 こんなとき少年時代、そう。今から二十年近く前のいわば【練馬サリン】時代であれば黒原やイクイクいくちゃんたちと交番に向かってロケット花火で攻撃したり、 怖そうなおじさんの頭に向かっていきなり生卵をぶつけたりして逃げて気を紛らわすのだが、極めて真っ当な大人に成長した今の私が、そのような愚かでマザー・ファッカーなストレス発散法を実践出来る筈もなかった。 私は2リットルのコーラを半分近く一気にラッパ飲みをすると、煙草をくわえ、シルバーのジッポライターで火をつけた。 破損し、各種ツールが半分以上機能することが出来なくなったくたばりかけの携帯を取り出し、インターネットに接続する。 このイライラを効率的に解消するには、やはり生身の人間をどつき回すしかないだろう。 ―――無論、合法的に、だ。 私はヤフーの検索画面から”ジ・アウトサイダー”と入力し、いささか乱暴な力加減でそこをクリックした。 そろそろ次回開催されるであろう【THE OUTSIDER  第32戦】の出場選手を募集する頃だと思われる。 「・・・・」 ―――あった。募集していた。 私は両方の鼻の穴から勢いよく煙草の煙を吐き出すと、やや緊張した面持ちで食い入るようにスマホの画面を見つめた。 そこには【THE OUTSIDER 32 大阪なみはやドームサブアリーナ 出場選手募集】と記載されていた。 「大阪・・・・」 くわえていた煙草の先端から灰がポロリと地面に落ちる。 予想外だった。 試合会場が大阪というのは。 てっきりこれまでのように東京の【ディファ有明】辺りで開催されるものだと思っていた。 「・・・・」 ―――どうする? 自問する。 ―――大阪まで行くのか? 嫌だ。かなり面倒臭い。でも・・・・。 ―――わかっているのか?完全にアウェーだぞ。それにおまえが戦うところを見たがっている友人たちもきっと大阪までは来てくれないぞ。 うるさい。そんなことはわかっている。 ―――ならば、また次回東京でやるときまで延期するのか? うるさい。ちょっと待て。考えさせろ。 「・・・・」 私は束の間、”お化け屋敷”の近くにあるガードレールに腰かけたまま思惟を巡らせていた。 額から首筋にかけて大量の汗がしたたり落ちていく。 無意識の内に尋常ではない殺気を放っていたのか、野良猫のファミリーが足を止め、私のことをずっと注目していた。 「ふー」 私は大きく深呼吸をすると、やがて結論を出した。 やはり行くべきだろう、大阪に。 面倒だろうと。 そして、そこがアウェーであろうと。 ―――それはなぜだ?どうしてだ? 脳内でもうひとりの私が矢継ぎ早に問いかけてくる。 私はその問いかけにきっぱりと即答する。 それは私の美学だからだ。 信念だからだ。 そして、生き様だからだ。 己の美学と信念を貫き通し、立ち向かっていくその姿こそが”男・タムラ”であるからだぁーっ。 私はもう一人の私に向かってそう叫んでいた。 「・・・・」  その瞬間、頭の中がしんと静まり返った。もう問いかけてくる者はだれもいない。 ふと目をやると、すっかり興味を失ったのか、野良猫のファミリーは私のもとから歩み去って行った。

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