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純愛小説 "きみをつくり変える"『キリマンジャロの雪』1 

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恋愛小説『キリマンジャロの雪』1 "悲しいほど好きだから、俺はきみをつくり変える"

――あらすじ――

女は誰でも同じで、本当の恋など存在しない―― そう思っていた一人の男が、「きみ」に出逢い、危険な変容を遂げる"小説"。 <実在の人物を題材に小説化 / 内容は幻想ミステリ仕立て>

 いま、話したこともないきみについて、  ひとつだけ、わかっている事があるとするならば、  きみは『自分を愛していない』という事実。  多分、きみは知らない。  本当に誰かを好きになった男が、どんな末路をたどるのか。    内部の感情が曝けだされて、きみのひとつひとつに振りまわされる、  そんな自分の本当の姿など、誰にも知られたくない。  それでも、    俺は、君に『ある言葉』を伝えようと考えた。  それはきっと君が想像できない言葉だ。   1.見えない北極星と信号待ち  ――これまでの俺の人生は例えようも無いくらいに、しっちゃかめっちゃかだった。手の平にはコイン大の穴が開いていて、頭にはいつ誰が付けたのか分からない隠れた傷が残っている。  しかしこんな人生でも取り立てて深く悩んだことなど、たったの一度も無かった。  多分、この頭は、どっかがイカれているんだろう。  それなのに、君に出逢ってからは、やたら調子が狂った。    君の事が頭によぎると、言い難い気持ちが、心を荒らした。    ――俺の職業は、"距離"を計ること。普通では計れない距離をはかる。やり方は「企業秘密」だが、計れと依頼されれば、ほとんど何でも計る。  遠くと近く、物体間の距離、そして場合によっては、人間どうしの心の距離も、あらゆる手法と特殊なレンズと道具を使って、はじきだす。  仕事のことについては、おいおい語るが、  かつての俺は、女というものに興味が無かったわけじゃない。しかし、特に入れ込んだこともなかった。必要な時に現れては、去っていく、それぐらいの関係が俺には、ちょうどよかったからだ。  しかし、君を見かけてから1か月後の5月の始め。  そのころには、もう我慢がならなくなっていた。  夜になれば、わざわざ北極星の見えない川べりの田舎のログキャビンから出て、街まで降り、君と似たような女を探して歩いた。  駅裏、ブールバード通り、遊園地、カフェのトイレ。  なんで自分でも、君を探しているのか、よくわからなかった。  言葉を交わしたこともなければ、触ったこともなかった一人の女を。  ただ君は、毎週水曜と土曜の真夜中、ずいぶん型の古い、カマロ・イェンコに乗って、交差点の信号待ちで俺の居る作業場を窓越しに見つめる。  そのときの君は、なぜか俺と目があうまで顔を向けている。    俺を見ると、その瞳の中に、青緑色の星を光らせる。  そして青信号になる直前には、エンジンを吹かし去っていく。  目があうのは、ほんの数十秒の間だ。  しかし通りかかった君は、いつも必ず、俺の眼を見つめる。  君については煙まみれのタバジー(飲み屋)で、出所したての知人のゴメット・バズから少々危うい噂を聞いたことはある。  バズは、カウンター席に並んで座る俺に、こう言った。 「その女なら知っている。古い型のイェンコ乗りだろ? 元受刑者専用のPEP(プリズン・アントプレナーシップ・プログラム)にいた仲間から聞いた。桟橋のふもとの小さな船の中に住んでいる。知り合いか?」  俺は首を振った。 「いいや」 「確かにあの女はすげえ美人だけど、赤の他人のお前が、どうしてそこまで、あの女のことを気にするんだ?」  俺は、ただ黙っていた。  バズは、茶色いフィルターの煙草を俺に手渡し、言った。 「あの女とは関わらないほうがいい」  俺は皺くちゃの煙草を受け取り、聞いた。 「何で?」 「胡散臭い、とある男の家に、週に2回通っているらしい」 「胡散臭い男?」 「そうだ」 「通うのは水曜と土曜の真夜中か?」 「曜日までは知らねえ。だが、夜中だってのは聞いた」  俺は思わず苛立ち、自分の鼻頭を引っ掻いた。  バズは言った。 「なんで腹を立てる?」  紫色に染まった指で、火をつける。  俺の手の平には、以前起きたくだらないトラブルによって、コイン大の穴が開いていた。  その手をカウンターの奥に翳し、目を細めると、手の穴から木製棚に置かれたガスレンジが見えた。  ガスレンジには、バターの指紋の跡と、何かのシールが貼られていた。  シールにはこう書かれていた。"Screw you(くたばれ)."  バズは俺の手の平の穴をちらっと見、汚れたコインを回しながら、言った。 「女が呼ばれているのは6番街Z通りの高級住宅街にある男の家らしい。その男は、おれが女だったら、金を払ってでもデートしたくなるような顔つきをしている。奴は、お前と同じくらいの年頃で、それから――」  バズはその後、険しい顔つきで黙った。  その男の素性も気になったが、それよりもっと心に引っかかる事があった。  俺は煙の向こうを見ながら考えた。  君の目を見れば分かるのは、  君が、自分を憎んでいるということ。  あの信号待ちのつかの間、  この手の平の穴から覗いて、『世界』と『君』との距離を計って知った。  ――なぜ君は自分を愛さない?  バズは大工あがりのタコの出来た薄汚い手でジョッキをあおり、紫まみれのライトの下で、聞いた。 「お前は、その女とどうしたいんだ」 「どうしたいとは」 「やりたいのか?」

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