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冬恋⑭

翌朝になっても、オーロラ小屋の主人は戻ってこなかった。 日本へ帰る航空機の時間も迫っている。 この小屋が広大なイナリ湖の、どの辺りに位置するのか? 隆二のiPhoneを操作しても、現在地が判明しない。 ホテルイナリからイヴァロ空港まで一時間ちょっと。 イヴァロ空港からヘルシンキまで飛んで、ヘルシンキ発成田行きの便に間に合うには、 遅くても昼までにはホテルイナリに戻っていなければいけない。 どうしたものかと、二人して頭を抱えていると、 爆音が小屋に近づいてきた。 「帰ってきた⁉︎」 「いや、多分スノーモービルだ」 急いで外に出てみると、二台のスノーモービルが停まっている。 明日美ちゃんに同行していた撮影スタッフだ。 「登坂さん‼︎今市さん、やっぱりここでしたか!」 「お迎えに来ました」 「どうしてここが?」 「明日美さんの提案で、登坂さんのiPhoneをお借りして、隆二さんの位置情報を入手したんです」 「隆二のiPhoneでは現在地も特定出来なかったのに?」 「登坂さんがインストールされているアプリですと、簡単でしたよ」 「そうなんだ…」 隆二と顔を見合わせた。 「ホテルイナリまで二台のスノーモービルでお送りします。 後ろに乗って下さい」 「助かった!ありがとう」 「だけど、ご老人が帰って来るまでは…」 その時だった。 薄暗い空に一瞬光が射して、小屋から少し離れた小高い丘を照らしだした。 立派な角を蓄えた真っ白な二頭のトナカイが寄り添ってこちらを見ている。 「で、出た!シシガミ様だ‼︎」 撮影スタッフの一人がそう叫んだ。 「二頭なんて、奇跡だ…」 「どちらも角があるけど、あれはきっと雄と雌だな」 「神々しいな…」 一気に色めき立つスタッフの隣で、俺と隆二は言葉を発せないでいた。 二人が離れていた時間にそれぞれ出会って、遭難しそうになった俺たちをを助けてくれた 白髭の老人と、白髪の女性は… もしかすると、白いトナカイの化身だったんじゃないか? 言葉を交わさなくても、お互いに同じ結論を導きだしていた。 「ねぇ、臣、あれって」 「…信じられないけど、もしかしたらそうかもしれないな」 荒れ狂う広大な雪原で、タイミングよく隆二を見つけて保護してくれた老人。 快くガラスイグルーに招き、俺に暖を取らせてくれた女性。 ツアーバスで老人と共に遭遇した白いトナカイは、 彼を迎えに来た、彼のパートナーだったのかもしれない。 雪と氷で閉ざされた、この北極圏のオーロラの街では、 そんなおとぎ話のような出来事があっても不思議ではない。 あのムーミンが生まれた国だもの。 ちっとも不思議ではない。 二頭のトナカイは、いつの間にか幻のようにいなくなっていた。 それでも時間ギリギリまで待って、一向に帰ってくる気配がない主に置き手紙を残し、 俺たちは小屋を離れた。

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