はじめに
医歯薬看護系の大学受験生を教えていて気付くことがあります。 医療系の大学を志望する生徒はみな真面目で「誰か、人のために役立ちたい」「患者(の命)を救いたい」という強い使命感に駆られて勉強する人が多いように感じます。 こうした思い自体は決して間違いではありません。しかし、医療というと、対患者のことだけを考えて、その背後にある大きなものに対する視線に欠けている、悪く言えば、近視眼に陥っている受験生が大半です。 医療は診察室や治療室あるいは病床で患者と向き合って為されるもので、狭義には病院内で完結する(かのように見える)ものです。 しかし、その患者の背後には、患者の家族や友人・知人、パートナーといった患者に身近で接する関係者や、患者の住む地域があります。医療行為は直接的には患者個人に対して施されるものですが、医師・看護師(および医療関係者)は常に患者の背景にあるもの、すなわち家族や地域に向けてのサポートをするという側面があるという事実を忘れてはなりません。また、医師・看護師の病院内の振る舞いは、絶えず地域住民によって視られているという意識を持って業務にあたることが重要となります。 つまり、医師・看護師は常に地域の抱える問題と向き合いながら仕事をしているのです。こうした当たり前の事実は医療がルーティン化するとつい看過されてしまいがちですが、今回の新型コロナウイルスの感染拡大で、全国やいくつかの都道府県に緊急事態宣言が発出されたり、北海道旭川市や沖縄県宮古島市に自衛隊が出動したりする事態になって、医療が地域(都道府県や市町村)と密接なつながりを持っていることを改めて思い起こさせる機会になりました。 このような理由で、「地域医療」というテーマは医歯薬看護系大学入試の小論文では、欠かせない問題となることを承知いただけたかと思います。 また、医師は科学者の一人として、「科学技術の功罪」や「科学技術と社会との関係」といった問題も視野に入れて日常の業務に取り組む必要があります。こうした問題は「薬の副作用」や「トリアージ」、「新型コロナウイルスのワクチン接種の優先順位」といったテーマを考えるときに関連する話題でもあります。 というわけで、医療(科学技術)と社会、医療と地域という大きなくくりでみなさんはその相互の関係をどのように考えていますか? 今回はこのような問題提起をしたうえで、「科学技術と社会」「地域医療」の入試問題を解説してゆきたいと思います。