ユリちゃんの「京都大学、医学部医学科」合格体験記 ユリちゃんのお母さんがボロアパートの一室で電話をしている。 「養育費が振り込まれてないのだけど・・・」 「そんな!ユリは今年大学入試なのよ」 「ちょっと、待って。きらないで」 お母さんはためいきをつきながら電話をきる。 お母さんが生命保険の証書を引き出しから出して何か決心したような顔をしている。 そこへ、ユリが帰ってくる。 「お母さん、それなに?」 「ううん、なんでもない」 「・・・お母さん、わたし大学に行ってもいいの?」 「何を言ってるのよ。大丈夫!私にまかせなさい!」 「うん・・」 翌日、ユリの学校。バレー部の部室でキャプテンと二人で話しをしている。ぼろいジャージを着ているユリ。 「どうしても退部するしかないの?」 「わたし、国立大学に合格しないとダメなんです」 「クラブと両立させればいいじゃない!」 「わたしも出来たらそうしたいんです。でも、・・・」 「分かった。ユリは私たちを見捨てるんだ!!」 「え?・・・」 キャプテンは怒って出て行ってしまう。 ユリは淋しそうに立ちつくしている。 教室に戻るとエリカがユリに近寄ってくる。 「で、どうだった?無事に退部できた?」 「う、うん。大丈夫」 「でも、ユリはなんでそんなに成績いいのに頑張るの?」 そこへ、男子生徒が近寄ってくる。 「おい、ユリ。おまえ、いつもヨレヨレのジャージだなぁ。勉強できてもさ、それじゃ女としておわってない?」 「ちょっとぉ、それ、ヒドイんじゃない!!」 「エリカちゃん、いいの。私、気にしてないから」 「あんなバカ、放っておこう。ところで、3年から予備校に行く子多いけど、ユリは?」 「うちは、そんな経済的余裕ないわよ」 「じゃ、高木塾に行けば?あそこ安いって。それにオンラインで無制限に質問ができるらしいよ」 「そうなの?」 高木塾の事務室で、高木先生が通帳を見ながらうなっている。 「うーん、今月もギリギリだぁ」 「英検の勉強と京大受験に100万円以上つぎこんだからなぁ・・」 コピーの修理をしている業者が尋ねる。 「そんなにお金がかかるんですか?」 「1回受けるのに新幹線代、宿泊代、受験料など総額7万円」 「それが、なんで100万円になるんですか?」 「7回受けたから、それだけで50万円くらい」 「えー!!??その年で高校生に混じってですか?」 「みんな、そう言う(笑」」 「私はお酒飲まない、タバコ吸わない、ギャンブルやらない、女嫌いだから、その分を勉強にまわしているんだよ」 「なんか、スゴイですね」 ユリのアパート。ユリが母親に話しかける。 「お母さん、私、塾に行きたい」 「え?今まで一人で勉強するって言ってたじゃない?」 「でも、今回の模試の結果ね、これ。ボーダーぎりぎり」 模試の結果を見せながら言う。 「高木塾って安いけど、とてもいい先生だって聞いたの」 「京大を7回も受けて英語8割を実証した人なの」 「そう?じゃ、お父さんにちゃんと養育費を払ってもらわなくちゃね」 「うん」 高木先生の塾。ユリちゃんが相談をもちかけている。 「私、医者になりたいんです。でも、お金がない」 「それなら、防衛医科大学か自治医科大がいい」 「どうしてですか?」 「いくつか条件はあるけど学費を実質無料にできる」 「え?そうなんですか?」 「しかし、そういう大学には優秀な受験生が殺到する。かなりの難関だよ。旧帝でも奨学金と家庭教師のバイトで何とかなるんだけど、こっちも超難関」 「私、医者になってお母さんを経済的に支えてやりたいの」 「そうか・・・」 「じゃ、家庭学習中の質問はチャットワークでね」 「でも、先生、無料で無制限に質問できるなんて儲からないね」 「まったく、そのとおり!」 「ははは」 二人で笑っている。 ユリちゃんのお母さんはパート勤務のスーパーでマスクをしながらお菓子棚の整理をしている。そこへ、子供が近寄る。その瞬間、お母さんが咳をする。子供の母親が近寄ってきて怒鳴る。 「なにすんのよ!!うちの子にコロナがうつったらどうすんのよ!」 「ご、ごめんなさい」 「もう、本当に!気をつけてね」 母親に会いに来たユリがそれを遠くから見ている。こぶしを強く握る。目には涙が浮かんでいる。

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