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冬恋⑬

気持ちが落ち着いてからiPhoneを見ると充電が切れていた。 ご老人に聞いてみると、「充電器か…どれ、確か古いのがあったかの」と言って、またダンボールから探り出してくれた。 充電する間だけと思い、暖炉の側で休ませてもらった。 そのまま深く眠ってしまった様だ。 俺は多分夢と現実の狭間にいて、今回のフィンランド旅行のダイジェスト版ともいうべき回想シーンをスクリーン越しに見ている。 嫉妬から始まり、迷い、憂鬱になり、それでも構って欲しくて、 後を追ってきて抱きしめて欲しくて… そうしたら本当にアイツが空港まで迎えに来てくれて、 そのまま一緒に、一旦はドタキャンした異国へと旅立った。 疲れていても眠ってなくても、臣は時に驚くほど大胆な行動をする。 どんなワガママも聞いてくれて、それでいて俺様で、エロくて、 限界を知らなくて… 人目もはばからずにスキンシップもしてくる。 女性にはめちゃくちゃモテるし、恋の噂も星の数ほどだ。 消えても消えても、後から後から湧いて出てくる。 映画公開の時期だって、少なくとも二人の女性との密会を噂されていた。 それだけ魅力があって、みんなが放っておかないんだ。 今日、GPSを頼って臣を探し出した女優さんだって、 臣のことが好きで…そう、雪で表情はよく見えなくても、声のトーンを聞けばわかる。 きっと愛の告白をして、その最中に予期せぬ白い嵐になって、 か弱い女性を一人で置いてけぼりなんかにはしない。 アイツはそういう男だ。 今も必死で守ってるかな? 彼女を一人雪原の嵐の中に置いて…そんなことは絶対にできない奴だ。 嵐がおさまって安全な場所に彼女を送り届けてから、 それから俺を探し回るに違いない。 そうしてくれている方が安心できる。 それとも何か向こうの状況が変化して、 この荒れ狂う白い嵐の中を脇目も振らずに、自分の身も顧みずに、 凍えそうになりながら、足を取られながら、 それでも前へ前へ、 たった一人で俺を探して彷徨っているとしたら? そのまま遭難でもして…二度と会えなくなってしまったら… 考えれば考えるほど、早く臣を探しに行きたくて、 胸が苦しくなるのに、 カラダがちっとも言うことをきかなくて、もどかしくて… …もう一つの選択肢で、俺がすでに避難してると信じて、 臣もどこかで嵐をやり過ごしているかも? 今はそう信じていたい。 そういえばツアーバスの中で、あれは白いトナカイと遭遇する前に、 なんか耳元で言ってたな、臣。 古いバスの大きなエンジン音でよく聞こえなかったけど… こんな事になるなら、離れ離れになるのが予測できたなら、 サカるな、なんて邪険にしなくて、臣のやりたい事全部、 好きにやらせてあげれば良かった。 臣の願望は、そのまま俺の願望だから。 充電できたら電話してみよう。 スクリーンで繰り広げられていた回想シーンも終わった。 暗闇に鳴り響く着信音で飛び起きた。 やっぱ夢見てたんだ。 髭のご老人は立ち上がって携帯で話している。 「おお、そうか!嵐も過ぎたようじゃ、今から様子を見てくるでの」 誰と話してたんだろう。 オーロラ観測の仲間かな? 「起きたか?よく眠っておった」 「ありがとうございました、俺、行かないと…」 「悪いがもうひととき待ってくれんか?」 「はぁ…」 「風速計を調べに行ってくる間、留守番を引き受けてくれんかの」 「あの…」 「いや、はやる気持ちはわかるが、ほれ、そこに温かい食事を用意してあるから、 それをすっかり平らげる頃には戻ってくる」 「多分小一時間で戻ってこれるから、頼んでいいか?」 遭難しそうだったところを親切に助けて下さったんだ。 断ったりなんてできない。 「わかりました、じゃあ遠慮なく、いただきます」 「うむ、頼んだぞ」 「誰か訪ねてきたら中に招いていいからの」 ご老人はそう言うと真っ白な防寒を着込んで、携帯だけ手にして足早に小屋を出て行った。

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