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113話 3度目の天王山:未だ手つかずの化学

さて、未だ手つかずの化学。 入試得点を見てみると数学が想像以上にできていなかったので 私はもう化学はやらなくていいという方に気持ちが傾いていた。 二兎を追ったばかりに一兎も得られないでは困る。 最後の大学受験なのだ。 手堅く行こう手堅く。 そんな感じだ。 だいたいもう話も出尽くして面談も終わりの雰囲気なのに イケメン先生は英語、物理、数学、については説明してくれたけど 化学については一言も言おうとしない。 それも答えだろう。 イチローが二浪してから、私が時折 「化学を自宅で勉強してませんが大丈夫でしょうか?」  と聞いていたのは後悔したくなかったからだ。 スタートが遅くて間に合わなくなるとか、 「やっていないとは思いませんでした。やるようにと言っていたのですが・・・。」 などという実りのない会話を後から交わすのがとても嫌だった。 でももう夏だ。二浪の夏だ。 新しいことをスタートするには遅すぎると私も思う。 面談は総括へと移っていった。 「とにかく数学ですね。 第一志望はWでどうでしょう?  TK大は数学が300点ですから 今後の数学次第ですけど・・・ (ちょっと厳しいかなというところですね。) もちろん 本人がそれでよければですけれど。」 息子も数学にそこまでの自信がないらしく、 先生の言うことに賛成のようだ。 だいたい息子と先生は年がら年中話をしているはずなのだから 息子との意思の疎通はもうとれている。 先生が確認したいのは「家の意向として問題ないか」だろう。 そう思った私は「家の意向」を話し始めた。 「TK大なんて、ウチはもともと考えていません。 数学さえできれば、ST大よりも入りやすいくらいだと 3月に先生から言われて そんなもんなんだ、とは思いましたけど。 ただ数学のあの入試の得点を見てからは、 もうTK大なんて頭に浮かびません。 私の好きな大学の数学が、2割しか取れていないんですよ? だからTK大なんて受けないし、 化学もいいんじゃない、もうやらなくて。 数学やりましょう。数学ですよ数学!」 私は吹っ切れた笑顔でそう言った。 「あ、でも化学は(そのうち)やらないと・・・。Wでも・・・(要るし)。」 「だからいいんじゃない。Wも、もう受けないで。」 この発言に 先生はことのほか驚いたようだった。 「え?」 と一言発すると椅子を後ろに引き、意味もなく立ち上がった。 私は立ち上がって少し上になった 先生の目を見ながら 「英語はキャサリン先生がなんとかしようと言ってくださって 嬉しく思っていますけど、どうなるかはまだこれからですよね。 だから息子にとっては英語だけでも大変だと思うんですよ。 それから数学。まだまだなんでしょう? それに加え化学だなんて。 無理無理。無理ですよ。   必要なのはセンターレベルの化学などではなく、Wの化学でしょう? 確かに自分次第だとは思いますよ。 でもこの子にやる気があるなら一浪時代に 一通り化学はご指導いただいてるわけですから、 とっくに自習を始めているはずでしょう? やることはいくらだってあるだろうに、 結局今まで何もしてない。 そんな子に今更無理ですよ。」 先生は立ったまま、息子の方に向き直り 「でも読んだりとか、してるよね?」 と声をかけた。 この 読んだりとか というのは 私が5月に先生に電話をして 化学をやっていないけど大丈夫か、というような話をしたときに、 「今は数学をまずは安定させるのが大切です。 ただ化学も弊害のない程度に そのときできることを指示しておきますので、 化学を始める、となったときに 0スタートにはなりません。」 と言った事を指すのだろう。 それでしばらくしてから息子に出された 「弊害のない程度の出来ること」 はセミナー化学を読むということだった。 息子は確かに、たまにだけど、 「読まなきゃ」て感じで本を手にしていた。 ちゃんと読もうとしてページを開いてはいた。 でもどんどん読んではいない。 頑張って読もうとしたけど、訳が解らなくて進まない。 そのうちその時間が無駄に思えて焦り、数学や英語のほうが気になって、 セミナー化学を放り出して他の勉強を始めてしまった。 この繰り返しだった。 (読んでるわけないじゃん。) 私は口に出さなかったけど、 心の中でそう言った。 (読んでおいて。で読める子なら、個別指導なんか頼まない。) 私は少しやさぐれていた。 息子は先生の、読んだりとかしてるよね?の質問に 「・・・ま、少しは・・・。」   と返事した。 私は腹が立つから拾ってやった。 「・・・ま、少しは・・・。読んだりとか、したくらいでWに入れるならいいですけどね。」 先生は座りなおして化学についての説明を始めた。 「化学は暗記科目です。 今年はこの夏に化学の暗記会を数回やることを 考えているんです。その方がお金もかからないですし。 授業は考えていません。今年は(僕の塾で)誰も授業をしてないですし、 必要ないですから。」 「Wの化学っていったい何点とれればいいんですか?」 具体的な可能性を探るために私は聞いた。 「イチロー君には物理の配点の高い学部を考えています。 ですから20点ですね。」 「20点?20点でいいの?20点なら・・・? あ、でも待って。 20点って言ったって、割合にしたら5割、とかなんでしょう?」 「そうですね。」 「Wの化学を5割とるだなんて。やっぱり難しいですよ。」 「でも、物理は出来るようになったでしょう?」 ・・・あのさ・・・。 「先生。それは 先生が物理の神 だからでしょう? 神が個別指導しても一年かかった子ですよ?」 言ってるセリフが私と先生、逆じゃないか?  と思ったがそのまま続けた。 「確かに20点と言われると何とかなるか、と思うけど、 暗記会を何度かやったくらいで、 ウチの息子にWの化学が5割とれるなんて思えないし、 だいたいもう夏だし、まだ何にもやっていないし、 だからもういいです。 今更やらなくて。」 ここで、あ、息子の受験だった。と思いだし 「もちろん 本人がそれでよければですけど。」 と、先生が使った言葉を拾って付け足した。 今度は息子が何か言う番かと思って 私の斜め前で先生の隣にいる息子を見たら、 間髪入れずに先生が言った。 「やりましょう!化学。そうですね、もう夏ですね。始めましょう。 Wを受けないとなると、この問題集もやらなくていいってことだし。」 文系数学の良問のプラチカを指す。 そうなんだ。 MARCHやR大には文系のプラチカはいらないんだ。 「W大を受けないのはこっちとしてもよくない。」 こっちとしてもよくない? 先生は私が口をはさむ間もなく、 椅子を引き、首だけでなく、 体ごと息子の方へ向き直りさらにちょっと近づくと、 トーンを落とした落ち着いた声で、 ゆっくり確認するように聞いた。 「受けるでしょ?W大。 (お母さんあんなこと言ってるけど、君が行きたくないって訳じゃないよね?)   僕とはここのところW大の話しかしていないくらいだったでしょ? (君がW大目指したくないとは思えないんだけど。どうなの?)」 「はあ、まあ、行けるなら。」 はあ、まあ、行けるならぁ?   腹が立ったから拾ってやろうかと思ったのに 先生はまたまた間髪入れずに、息子と二人で話している。 今度は少し早口だ。 「化学さ、○△って問題集があるでしょ、知ってるよね、あれやろう。 買ってこれる?」 「はあ、まあ、なんとなく。っていうかたぶん分かるかと思います。」 何て変な日本語なんだ。 なんだって、問題集買うって? 買い物は私がカードで買った方が、 割引になったり、ポイントがたまったりするので ウチでは息子が購入を決めたものは写真にとって私に送り、 私が購入して帰宅するシステムを取っている。 なので 「・・・どうせ買うのは私でしょ? なんて問題集、○△・・・?」 と口をはさむと イケメン先生は 「あ、僕が買ってきましょうか?」 と言った。  先生に頼むと間違いないし楽でいいけど  先生は超多忙なので 手に入るのが一か月後だったりするのが怖い。 「本当?・・・でも先生忙しくない?」 「大丈夫です。本屋さん・・・教材さんに行くだけですから。」 レアな本ならどうせ注文だ。購入は先生に任せることにした。 私はこれまでの経験から、 思わず先生の胸のあたりを指さして、 低めのトーンで 「いい?息子が問題集受け取るの一週間以内だからね!」 と言おうとしたが止めておいた。 懸命な判断だったと思う。 しかしだ。 化学をやって欲しい、と言ったなら   今はまだ時期でない、と言われただろうに、 化学をやらないで欲しい、と言ったら 即日でやることになってしまった。 人間と言うのは誠に妙な生き物である。

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