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冬恋⑧

後ろに反り返って俺の胸元にもたれかかり、下から見上げる。 隆二って、こんなに目ぇデカかったっけ? 「ねぇ」 「ん?」 「ずっと無口でさぁ、すっごくヤラシイことばっか考えてるでしょ?」 図星だ。 「いや、今夜なに食おうかなって…」 「嘘つけ、目が泳いでるよ」 「…!?隆二!見ろ‼白いトナカイが出た‼」 「誤魔化そうったって、そうは…」 突然だった。 ツアーバスの前方に真っ白なトナカイが一頭立ってこちらを見ている。 太陽も射さない極夜の雪原で、不思議な光を放っている。 一気に色めき立つ車内。 「スゲー‼真っ白なトナカイ…」 「まるでシシ神さまだ!」 隆二の言った通り、もののけ姫に出てくるシシ神そのものだ。 「この辺りでは…」 すぐ後ろの補助席から低い声が聞こえた。 「白いトナカイを見ると、良いことも、悪いことも起こるっていう昔からの言い伝えだ」 真っ白で豊かな髭をたくわえた皺深い顔。 地元の老人だろうか? それにしては流暢な日本語だ。 「お兄さん達も気をつけてな」 「…ありがとうございます」 小さく返した俺の声をかき消すように、隆二が叫んだ。 「あーっ!窓が汚れてっから、見えなくなった!臣っ‼見えないよ!」 「あ 、ああ…」 もう一度後ろの座席を見ると、老人はもう腕を組んで目を瞑っている。 悪いことは、いらないな。 いいことがあると信じよう。 隆二が俺の袖を掴んで、ゆさゆさと揺さぶる。 「ねぇ!写メも撮れてないじゃん‼」 「なんでこのバスの両サイド、泥だらけなんだ!?」 …それを俺に聞くな。

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