6 バスルームからはドライヤーの音が響き出す。 俺はキッチンに立ちながら棚からツナの缶詰めを取り出した。 手にした缶詰めをジッと見つめる。 何となく、涼と過ごした短い幸せだった時間を思い出していた。 春にとっちゃこの缶詰めが母親から唯一与えられた愛情の象徴だからだろうか。 「晴弥…大丈夫だよ。」 大輝がリビングから声をかけてくる。 俺の顔がそこまで悲壮感漂う物になってるのかと思うと、もうあまり笑えなかった。 小さく頷きパスタを湯がく。 フライパンにオリーブオイルを垂らして、ニンニクのスライスを浮かべた。 春が来てから、もう何度このパスタを作っただろうか。 バタンと音がして、バスルームから春が出てきた。 「旨そうな匂いっ!あっ!大輝さん!久しぶりっす!」 「ウィーッス!春ちゃん、元気そうだね〜」 「ふふ、ちゃんと飯食えてるからねぇ」 春はダボダボのTシャツにボクサーパンツ一枚。 ソファーに座って胡座をかくと、大輝と楽しそうに話しを始めた。前フリ感が否めないが、春はそれを気付いてか、気付かずか会話は弾んでいた。暫くした頃、大輝は楽しい話と同じテンションでサラッと本題を切り出した。 「春ちゃんさぁ、今日、何日だか知ってる?」 春は胡座をかいた足の指先を握りながらへへ…っと適当に笑った。

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