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冬恋 ①

あの時、俺はまた奴に恋したんだ… 楽しみにしていたフィンランドへの旅。 待ち合わせ場所に、アイツは来なかった。 「なぁ、隆二知んない?」 LDH事務所に入ると、台本片手にブツブツ言ってるがんちゃんが居た。 「こぇー顔して、何かあったの?」 しまった… 思いっきり表情に出てたか。 「いや、昨日飲みすぎて頭がスッキリしないだけさ」 「隆二さんなら映画の舞台挨拶で名古屋でしょ?」 「あ、そうだったな」 「それよかさ。見たよ!新曲のアレ」 「ああ」 「相変わらず臣さんのラブシーンって、ねっとりと後引くよね」 「そうかな?俺はまだまだ納得いってないんだけどね」 「あれ以上どうするってゆーの?」 「MVの枠超えてシネマじゃん、それ」 屈託ない笑顔で返すがんちゃんを見ながら、事務所に備え付けのコーヒーをカップに注いだ。 ひとくち飲んだら頭の中が冴えてきた。 「そういえばさ。MVの配信って15日だったよな?」 「18時でしょ?」 「まとまった休みが取れた初日だったから、俺実家で見たよ」 隆二にすっぽかされて、空港で待ちぼうけくらった日だ。 カップをデスクに置き、LINEを開いた。 アイツ…既読にもならない。 「いつ帰ってくるんだっけ」 「隆二さん?」 「ん」 「FNSまではフリーでしょ」 「そうだった…」 「変なの。直接聞けばいいのに」 「…だよな」 もしかして、怒ってんのかな? アイツ… 名古屋に有るTOHOシネマの控え室で、隆二は思い悩んでいた。 ベストヒット歌謡祭の収録前、楽屋裏トークが終わって、臣が俺の握っていたマイクを手に取った。 いつもはそんな素振り、見せないようにしてるのに。 無意識でさり気なく俺の手を包み込むようにマイクを取った。 その優しさに、一瞬…フリーズした。 後から動画をチェックしたけど、誰が見てもハッキリわかるくらいに… 臣のさり気ない優しさに俺は、戸惑いを隠せなかった。 キュン死なんてレベルじゃない。 一生アイツを…臣を独占したいと、本気でそう思った。 その翌日だった。 アイツの新曲が配信されて、初めてMVを見た。 ズシッと心が重くなり、続いて小さなヒビが入った。 心にヒビが入るんだ。 初めての感覚… どれだけ一緒に居たって、 飽きるほど愛し合ったって、 ひとつにはなれないんだ。 アイツ… あんな風に、女性を抱くんだな。 俺たちの関係だって、いつまで続くかなんて分からない。 いつか… あの優しさを失う時が来るのなら… できるだけ早い方が、傷も浅く済むかもしれない。 ピコン♫ iPhoneがまた鳴った。 ったく、るせーな。 人が感傷に浸ってる時に… 「さっきからLINE鳴ってるよな」 「出なくていいのか?」 隣に座る直己さんが尋ねてきた。 「多分、相方なので…」 「喧嘩でもしたか?」 「いえ…」 「一方的に俺がすっぽかしたんです」 「おいおい、大丈夫か?仲良くしてくれよ」 「…唯一無二のツインボーカルなんだから」 「わかってるんですけどね」 「なんか歯切れ悪いな」 「ねぇ、直己さん…」 「ん?」 「夏に始まって冬に終わる恋って、なんだか寂しいですね」 少し沈黙があってから、直己さんが真顔で答えた。 「やだ!!」 「え!?ウソ💦‬やめて下さいよ!それいつかのしゃべくりでやったIKKOさんのアレでしょ?ヤバい 笑」 「いつもの笑顔になったな」 「直己さん…」 「隆二はさ」 「何があっても、いつもお日様みたいに笑ってろ」 「…ありがとうございます」 直己さんの優しさが身にしみた。 舞台挨拶が終わり、マネージャーも交えて食事を済ませ、レモンチューハイを1本だけ買って名古屋駅前のホテルへチェックインした。 TOHOシネマに入ってからずっとマナーモードにしている。 ジャケットを脱ぎベッドの上に置き、シャツのボタンを外した。 冷たい椅子に座り、レモンチューハイを一気に流し込んだ。 「寒い…」 その間視線はずっとiPhoneを見ている。 臣からのLINEが大量に入っててもなんか嫌(や)だし、ぷっつりと音沙汰がないのも凹む。 約束すっぽかして、何言ってんだか… いつか見たドラマの様に、いきなり部屋のチャイムが鳴って、 東京のスタジオにいるハズの奴が、 ドアの向こうに立っているっての、どうよ? 物理的には有り得ないな、そんなシチュエーション… いつ、別れようって言おうか? 別れたくもないのに… 怒るだろうな、臣。 プルルルル… 部屋に設置してある電話が鳴った。

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