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GHCという名の真実 2020

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 まもなく20周年を迎えようとしているプロレスリングノアですが、その歴史はまさしく荒波を突き進む方舟のように、険しい道程だったように思われます。度重なる苦難を乗り越えるべく、その歴史に刻み込んできた激闘の数々。そんな闘いがあったからこそ、どんな形になろうとも、今なおノアは前進を続けていられるのでしょう。そしてその激闘の象徴としてずっと君臨しているのが皆さんご存じの通り、GHC(グローバル・オナード・クラウン)王座です!  2000年の旗揚げ以来、三沢光晴、秋山準、小橋健太、田上明、髙山善廣、力皇猛、丸藤正道、KENTA、杉浦貴、潮崎豪など、錚々たる顔ぶれが文字通り凌ぎを削り合い、その腰に巻いてきたことで輝かしい歴史を刻んできたこのGHC王座ですが、その激闘の数々は誰より皆さんがご存じのことと思われます。ですがその王座の存在を知っていても、それがどのような経緯でどのように誕生してきたのか、それを知る人は少ないことでしょう。  なのでこのGHC王座がノアという団体でいかにして生まれ、そこにどのような思いが込められて製作されてきたのか、設立当時ノアの社員であり、ベルト製作の責任者を任されていた私だからこそ知る真実を、ここに記していきたいと思います。

突然の三沢社長からの製作司令 チャンピオンベルトを作る重圧

「来年、王座を新設するからベルトを造ってくれないか!?」  それは突然の指名でした。確か旗揚げ間もない10月ツアーの終わり後だったかと思われます。社員と役員が揃って会議室で行った全体会議のとき、まもなく会議も終わろうかという終盤で、三沢社長からいきなり名指しで私が指名され、その大仕事の責任者に任命されたのです。 勿論、当時の私はノア の社員で、それなりの肩書きも頂いていたので、その指示は当たり前といえば当たり前のことなのかも知れません。ですがノアに入る前はゴングの記者だった私にとっては、当然、チャンピオンベルトを作った経験などありません。だから何をどこでどう始めればいいのか、まったく分からないですし、何よりプロレスに関わる者にとってチャンピオンベルトといえば永遠に憧れの象徴。ファンのみならず、プロレスに関わる総ての人たちにとって何よりも尊い存在にあるものです。それを自分が造るということで、かなりのプレッシャーに苛まれたことは言うまでもありません。  とにかく安易な気持ちで造る訳にはいかない、そう思った私は、まず自宅に帰ると以前、ゴングの増刊号で発売されていたチャンピオンベルトの本を最初から最後まで一気に読み直しました。そこにはどんな王座がどんな地区で生まれ、どのような闘いが行われていたのかと同時に、ベルトの写真もそれぞれ載っていたので、大いに参考にしたものです。そして出した結論は、私の感性で作るよりも、記者時代に“三沢さんから教わったプロレスへの思い、三沢さんのノアという会社にかける思いを象徴するベルトにしよう!”と決意したのです。 まずそれまでのプロレス界において、ベルトの名称といえばアメリカではその団体、及び組織の名称をそのまま使うのがスタンダードとなっていました。NWA (ナショナル・レスリング・アライアンス)、AWA (アメリカン・レスリング・アソシエーション)、WWF(ワールド・レスリング・フェデレーション=現在のWWE=ワールド・レスリング・エンターテインメント)などがそうです。  日本ではその王座から派生したベルトのインターナショナル王座や、ある地域の名称を用いた名称を使うのが主で、全く何もないところから団体名を用いない王座を新設したのは、新日本のIWGP (インターナショナル・レスリング・グランプリ)が走りだったのではないでしょうか!? いずれにしても、その流れからいけばNOAH wrestling association とでもしていたら無難だったのかも知れません。でもノアを設立する前に三沢さんが語っていたある言葉が私の頭から離れず、そういう無難な策は最初から除外して考えていました。 「プロレスの地位というものをもっと上げていける団体にしていきたい!その為には古い慣例にとらわれず、新しい自由な発想で各自が責任を持ってやってほしい」 その言葉が旗揚げ時のスローガンである“自由、そして信念”と繋がっていったのですが、その三沢さんの言葉があったからこそ、あえて私はNOAH という団体名、WORLD (世界)、Wrestling (レスリング) というそれまでの王座にはあって当たり前の言葉を用いるのは一切止めようと思いました。そしてそれに代わる言葉はスケールの大きなものを、そしてノアの選手たちが誇りを持って全身全霊をかけ、行う闘いを象徴するような言葉が他に何かないものかと、必死に探していたのです。

地球規模の崇高なる王位…その意味 プロレスを越えたプロレスを表現!

 NOAH と聞けば皆さんご存知の通り、ノアの方舟がまず頭に浮かんでくるでしょう。地球全土が大洪水となり、生きとし生ける者すべての生存の危機に、神に選ばれた者のみ、ここに乗り込むことでその命を救った運命の方舟。激しい荒波を乗り越えて突き進む方舟を頭に思い描いた時、なぜか浮かんできたのがグローバルという言葉でした。世界と同じ意味を持ち、尚且つより広く、重厚なイメージが持てる言葉。これからノア が挑んでいく未知なる闘いの歴史を築いていくにあたって、これほどふさわしい言葉はないのではないかとさえ思えました。頭の文字はG 、これはスンナリと決まったのです。 だが 問題は2つ目でした。どんな言葉を用いればいいのだろう? 悩んでも悩んでもなかなかいいアイデアが浮かんできませんでした。ですがここでもまたヒントにしたのが、かつて三沢さんが語っていた王者論です。まだ全日本プロレスに所属し、二度目の三冠王座を獲得した際、三沢さんはこんなことを言っていました。 「王者になるっていうことは、ただ試合に勝ってベルトを巻く、っていう単純なことじゃないんだよ。チャンピオンイコールその象徴として周囲に見られるようになるから、試合会場では勿論、普段の生活においても自分の言動に気を付けなくてはならない。下手なことをしたら、“あそこの会社のチャンピオンは…”なんていわれかねないからね。そうなると自分一人の問題ではなく、それこそ、それに関わってくる人間総ての問題になってくる。だからプロレス界を背負ってる、ぐらいの気持ちで常に広い視野を持って責任ある言動をしていかないといけない」 一度目の戴冠時はただ無我夢中で、そこまで考えている余裕はなかったといいます。ただその時に周囲の人たちが自分に何を期待しているのか、ベルトを落として初めて感じたそうです。“三沢さんにチャンピオンとしてあぁして欲しかった。こうして欲しかった”、そんな周囲の期待を落として初めて耳にすることで、二度目の戴冠時には真の王者となるべく、これまで以上に精進していこうと決意したそうです。 この言葉を思い出し、朧気ながらも2つ目の言葉のイメージが浮かんできました。プロレスラーとしてだけではなく、一人の人間としても強い責任感を持ち、人の上に立つ者としてより己を磨いていく。それを表す言葉を探していくうちに、浮かんできたのはやはり三冠王座を巡って三沢さんと小橋さんが数々行ってきた、究極の死闘ともいえる激しい闘いでした。  これは私自身が直接三沢さんや小橋さんにも言ってきたことですが、この二人の闘いはある意味、プロレスの領域を越えていたように思います。プロレスの闘いとはリング上で自らが鍛え上げてきた精神と肉体、そして技術を存分にぶつけ合い、雌雄を決するものだと教えられました。でも闘いであっても、それは決して殺し合いではない。しかし二人の闘いは受け身の取れない危険な投げ技を何度となく放ち合い、あろうことか場外に向かってまで必殺技を放っていく、これはもはや「危険すぎてプロレスではない!」と私は言いました。しかし別々に聞いたにも関わらず、二人から返ってきた言葉は偶然にも全く同じものでした。 「相手が小橋(三沢さん)だから、やるしかないんだよ」 互いに心底認め合う関係だからこそ、領域を越えて闘わなくてはならない、そこまでしなければ勝負は決しない、この二人の闘いはまさに崇高な闘いといえるでしょう。この二人が所属する団体だからこそ、またあのような闘いを繰り広げることはまず間違いない。そしてその意志は、他の選手たちにも必ずや伝わっていくことでしょう。こういった意味から日本語で崇高という言葉が頭に浮かび、会社にあった和英辞典で調べた結果、honored (オナード)という言葉が当てはまりました。正確には適切な単語ではないという指摘も一部にはあったようですが、あえて私はこの言葉に決めたのです。 最後の言葉、crown (クラウン)は文字通り王座を意味します。でも私は、あえてベルトでありながら王冠という意味を重視してクラウンという言葉を用いました。それはプロレス界の最も高い位置に値する王座であってほしい、という願いを込めたものです。万人の頭上に位置する王座、そういう意味合いをアピールしたくて用いたものです。  一部、他団体の選手からはGHC という名称に対して「誰がつけたんだ!? DHC? GHC? サプリメントみたいな名前つけやがって!」などと批判する人もいたようですが、グローバル・オナード・クラウン“=地球規模の崇高なる王位”という名称は、ただ強いだけではなく、総ての頂点に立つ者に相応しい、崇高なる精神と肉体と技術を併せ持つ完璧なる人間を目指して精進していく者こそが巻くべき王座。そういう意味を込めてネーミングしたものです。  それこそが三沢さんが目指した王者像、それがGHC だと信じて私は名付けたのです。なので安易にノアに乗り込んできて、ただそこのトップの証であるべルトを獲ろうという野心だけの王者は誕生してほしくないし、また誰でも軽々しく挑んでいける王座ではあってほしくありません。これはヘビーのみならず、ジュニア・ヘビーやタッグ王座においても同じこと。決してサプリメントだなんだという次元の話ではないし、“そんな軽いものではない!”ということだけは万人の方に知っていてほしいと思います。

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