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断髪小説~恭子~

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ボウルカットにした幸子の髪は徐々に伸び、今では伸びきったショートカットのようになってしまった。 一度、調えるために和子さんの床屋さんで散髪してもらった。 ある日、2人が食事を共にしていると、和子さんが切り出した。 「今度ね、主婦の方が散髪を希望しているの」 「そうなんですか」 「その人ね、丸坊主でなければ、どんな髪型でも良いですって話してるの。しかも公開散髪はもちろん、荒切りは素人の人に任せても良いですって言ってるの」 「えっ、すごい勇気ですね」 「それがね、散髪や公開、荒切りの条件としてモデル代が欲しいみたいなの。ご家庭の事情で少しでもお金が必要みたいでね。私としては散髪してほしいという女性しか切ったことがないから、本心では切りたくないという人を切るのには抵抗があるのよね。お金が欲しいという切迫した事情には応えてあげたいとも思うし、長さや質は申し分ないんだけど」 親からの仕送りだけで、気ままな大学生活を送る幸子は社会が抱える問題の一端に触れたような気がして、何と答えて良いか分からず困惑してしまった。 「少し考えから答えようと思ってるの」 和子さんが独り言のように呟いた。 しばらくすると、ホームページに広告が載った。 「公開散髪希望 モデル代次第でファンによる散髪可 散髪見学も可」 下には散髪、見学のための最低金額が書かれていた。 さらにその下には「恭子 43歳」という文字とともに、女性の後ろ姿が写った画像が掲載されていた。 背中の真ん中まで届く黒髪だ。 幸子は自分が切られるわけでもないのに、興奮が高まって来るのを感じた。 2週間程でまたページが更新された。 「散髪決定1月〇日。公開散髪。ファンによる断髪式もあります」 すごい勇気だなあ。 生で見られるだけではなく、素人の人に切らせるなんて・・ しばらくするとまたページが更新された。 「鋏入刀式の方は決定しました。見学者数も既定人数に達したので締め切らせていただきます」 赤い字で大きく書かれていた。 数日後、和子さんから連絡があり、二人でよく使う駅ナカのスタバで会うことになった。 「申し込み多かったんですか」 「うん、すぐにいっぱいになってしまったわ」 「モデルさんはどんな気持ちでいらっしゃるんですか」 「電話で決定したことを伝えたんだけど、やっぱり心配や不安が大きみたい」 「本心では切りたくないんですよね」 「そうなの、娘さんが大学受験でお金が必要みたいなの」 「そうなんですね」 「キャンセルということもあるかなと、覚悟はしているわ」 1月〇日。 ついに恭子さんの散髪日がやってきた。 幸子は自分が散髪されるわけでもないのに朝から落ち着かなかった。 散髪は14時からだったが、12時には和子さんの床屋ページを開いて待っていた。 13時50分になると中継が始まった。 見慣れた店内に男性客が10名程座ったり、立ったりして待っている。 真ん中のバーバーチェアを挟むように、両側の2台が内側を向き、そこにも男性が一人ずつ座っている。 なんとも異様な光景だ。 しばらくすると和子さん、旦那さんに挟まれるように恭子さんが入場してきた。 白いワンピースを着た小柄な女性だ。 和子さんに促されるように、恭子さんがカメラの前に立ち自己紹介を始めた。 「恭子と申します。まだ、どんな髪型になるのか聞かされていません。 ここ20年程、肩より短くしたこともないので不安が大きいです」 そう言って恭子さんは頭を下げた。 同時に長い髪が垂れてきた。 和子さんが後ろを振り向くと 一番端に座っていた、パーカー姿の男性が立ち上がった。 「今日はスポーツ刈りにしてもらいます」 と大きな声で宣言しながら、画像が印刷された髪をカメラに見せ、恭子さんに手渡した。 恭子さんの顔がこわばるのが分かった。 恭子さんが唯一空いている真ん中のバーバーチェアに腰掛ける。 「もっと下がって」 和子さんの一言で深く腰掛けなおす。 小柄な女性には男性用のバーバーチェアは大きいようだ。 すっと後ろに男性があらわれた。 声も掛けずに恭子さんの髪に触れ、長い髪をブラッシングし始めた。 男性は無言で櫛を動かし続ける。 「きれいな髪ですね」 初めて男性が一言発した。 「ありがとうございます」 恭子さんが小声で応えた。 しばらくブラッシングするとゴムで髪を縛り、頭の高い位置での見事なポニーテールが出来上がった。 すると別の男性が手にタオルを持って現れた。 肩にタオルを掛けケープを恭子さんに巻いていく。 「刈り上げもされるみたいだからこれも巻くね」 男性が不意に一言発し、ネックシャッターを恭子さんの首に巻きつけた。 ケープを巻かれたからか、それとも刈り上げという言葉に反応したのか、恭子さんの顔に不安の色が強く表れたように思える。

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