有料記事

【第二作】林檎の溜め息

ショートストーリー集の第二作目です。2019年発売。前回より収録作を増やしました。amazon版より100円お安くなっています! 「林檎の溜め息」は私が好きなjungle smile というバンドのアルバム名からつけました。赤裸々で痛い内容ながら美しい作品です。

長い自己紹介のはじめ

「あなたより才能があって仕事のできる人はいくらでもいますから帰ってください」 2007年の春、中目黒のビル内会議室で私は人生初めて「穴があったら入りたい」状況に置かれていた。 ここは大手求人情報誌の編集を手がける編集プロダクション。HPのやわらかい雰囲気とは裏腹にやって来た採用担当者は靴同様尖がった目つきの男性だった。 バイトの求人にも関わらずスーツ姿の応募者が廊下でずらりと並び、筆記試験の後、面接だと言う。筆記は一般常識と、「寅、こたつを入れて自分を印象づけるデザインとキャッチコピーを書きなさい」という難解な自由記述で正直ボロボロだった。 面接ではそのデザインについて「この絵の意図は?」「どうしてこのキャッチをつけたの?」と立て続けに質問され、しどろもどろ。最初は営業スマイルをしていた男性もみるみる顔が険しくなり、2分後に「こいつはダメだ」と思ったのか、大きくはっきりと 冒頭の言葉を言われたのである。 完全ノックアウト。 「すいませんでした!!!」 人を跳ね飛ばすんじゃないかという勢いで会議室のドアを開け、8階から階段を駆け下り、走った。走った。あの場から一秒も早く逃げたかった。そして息が切れて立ち止まり、朦朧とする意識の中で文章を書いて生きていきたいと思った自分を無意識の闇の中に葬った。あれ以来中目黒には行っていない。 今思えば、商業向きの文章が書けなかっただけなのだけど、当時の私は売るための文章も書けないとペンだけで食べてはいけない、これも修行のうちだと思って出版社、編集プロダクションを何社か応募していた。が、どれも合格しなかった。そりゃそうだ。嫌々応募しているのだから。しかも競争率が高いのを知ってるくせに及び腰で全然自己アピールなんてできなかったもんだから負け戦のはずなのに、不採用通知を見る度、自分が大切に温めてきた「好き」という宝石にヒビが入っていった。完全に自己否定された気分になり、自分には文章を書く才能はないんだ、もう文章を書くのは趣味にしようと固く決意していた。 そして12年後の今はというと、売れる文章を書ける人がいくらでもいるなら、売れなくても自分の興味のある事を、締め切りを設けずじっくり書こう、と好きな空想、妄想を物語にして書き溜めている。そして本当に私の文章は売れないのか、本という集大成にして売ることにした。退屈だと嗤われるかもしれない。またノックアウトされるかもしれない。だけど今回は嫌々でも及び腰でもない。足は震えながら評価対象のリングに上がるつもりだ。 大きな展開も結末もないけれど、傷を抱えながらも日々切実に生きる人々を表現した。登場人物は全て私の中にいる。あなたも私も今日より明日、過去より未来がもっと生きやすく笑って暮らせますように。長い自己紹介、始まります。

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